米田規子 俳句集(2011年)
新朱焔集作家特別作品
金木犀 米田 規子
シチューを煮込みコスモスの昼下り
たれかれと心地よい距離金木犀
秋の雲何かであって何かでない
休息は逃避に似たり秋の蝶
まんじゅしゃげ自由奔放なるいのち
バスを待ち夕日まみれに秋の海
ラ・フランス独りの時間好ましく
胸底に真実ひとつ椿の実
響焔2011年1月号掲載
朱焔集
深秋 米田 規子
ポップアート展潮風と秋の雲
赤い林檎黄色いりんご元気な子
深秋や車窓に満ちる海の紺
夕映えの芝生の広場赤とんぼ
忘却の彼方コスモス揺れ止まず
(栗原節子抄出)
天の川赤い電車に乗り換えて
撫子をいとしくおもう少し老い
響焔2011年2月号掲載
朱焔集
紅葉晴 米田 規子
加速して老いの入口紅葉晴
(河村四響抄出)
日がこぼれ海の煌めき石蕗の花
短日の会えば親しき七八人
山眠るほろりと溶けてチョコレート
(駒志津子抄出)
冬の薔薇一輪香り文学館
島ひとつ雲に隠るる憂国忌
冬あたたか六角形の青い窓
響焔2011年3月号掲載
朱焔集
やや傾いて 米田 規子
絵硝子の青の濃淡クリスマス
林檎煮てモーツァルトの子守歌
よく遊び冬三日月の船ゆらり
やや傾いて精神とラ・フランス
(山崎聰抄出)
ははのこえ四方八方枯れ尽し
年詰まる肩に食い込む黒鞄
日本の牛肉を焼き小晦日
(北登猛抄出)
響焔2011年4月号掲載
朱焔集
フリージア 米田 規子
雪降りしきり痛いほど父の愛
(山崎聰抄出)
老犬に人寄り添いて冬日和
鍵盤に十指踊るよシクラメン
新雪をきゅっきゅっと踏み我が母校
悴みてははの気配の台所
如月やはっかの香るハーブティー
フリージア夜の東京煌めいて
響焔2011年5月号掲載
朱焔集
うたいだす 米田 規子
はたらいて少し休んで冬木の芽
(山崎聰、北登猛抄出)
立春大吉アルプスの水を買う
グラタンふつふつ雪の木に鳥が来て
天上へ樹々うたいだすように春
春寒のシャンパンの泡核家族
ぽっきりとこころ折れそう春二番
如月やうすむらさきの日暮きて
響焔2011年6月号掲載
朱焔集
芽吹き 米田 規子
春遠く両手に包むティーカップ
(北登猛抄出)
点々とたんぽぽ灯り診察日
白木蓮なにもなかったように空
(小出昌子抄出)
今日のパン明日のパンも春の雲
いっせいに芽吹き少年から手紙
(小林実抄出)
常備菜二品三品木の芽どき
水温むぷくりと丸いこどもの手
響焔2011年7月号掲載
朱焔集
山椒の芽 米田 規子
雪柳胸の内なるざわめきに
まっすぐな心に触れて春の雷
(小林実抄出)
永き日の中間点で逢いにけり
花吹雪遊びはいつも本気なり
山椒の芽ぽっと明るいことひとつ
ひとまわり大きくなって若葉風
ほころびを繕っている昭和の日
響焔2011年8月号掲載
朱焔集
食前酒 米田 規子
夏来るすらりと伸びて中学生
柿若葉終りあること美しき
朗報の舞い込み卯の花月夜かな
椎の香のもやもや日暮食前酒
つつましく暮らして薔薇の花まっ赤
楽園へ猫のひっこし雲の峰
夏木立自転車漕いで風になる
響焔2011年9月号掲載
朱焔集
こもれび 米田 規子
話したいことがたくさん桜の実
(小林実抄出)
ブラシの木過ぎて家まで五月闇
黒南風や眠りを誘うモーツァルト
こもれびのベンチに並び濃紫陽花
葱・生姜・大蒜刻み熱帯夜
花菖蒲おとこぼそりとものを言う
(北登猛抄出)
半夏生日々飲食を共にして
響焔2011年10月号掲載
朱焔集
星涼し 米田 規子
森深く夏の少女は魚である
(河村四響、石倉夏生抄出)
自由を欲してらてら青い椿の実
青年の声に張りある真夏かな
ゆく夏の薄紅色のハーブティ
白桃やははが笑っているような
善と悪百日紅の揺らぎかな
パパッと作るペペロンチーノ星涼し
(森村文子抄出)
響焔2011年11月号掲載
朱焔集
鰯雲 米田 規子
万緑や全身に水ゆきわたり
(山崎聰、川嶋隆史、石倉夏生抄出)
南瓜煮ていちにち平和夜の雨
揚羽蝶舞いたれかれにありがとう
逝く夏の大きなオブジェ海の風
鰯雲我に越えたき壁ひとつ
等分にピザ切り分ける無月かな
声聴いて一気にあの日秋の雲
響焔2011年12月号掲載
朱焔集
月光 米田 規子
ほのぼのと年を重ねて女郎花
地に輝きて露草のシンフォニー
月光や遠くに馳せる愛ひとすじ
秋桜乗りたい雲のふたつみつ
気が合う二人風に彩ある芒原
にごり湯に硫黄の匂い花芒
お祝いのワインとムール貝と月