米田規子 俳句集(2014年)
 

響焔2014年1月号掲載

朱焔集

零余子飯   米田 規子

秋冷の連山けむり五百羅漢
みんなより遅れて笑い石蕗の花
(河村四響抄出)
二泊三日水引草の紅群れて
少しずつ親しくなりぬ零余子飯
ふるさとの秋の真ん中赤絵皿
山中節耳に残りて水の秋
うしろから息弾ませて十一月 (伊藤君江抄出)
 


響焔2014年2月号掲載

朱焔集

山眠る   米田 規子

豆挽いてひとりの珈琲山眠る
空っぽになって純粋冬青空
少し足りない柿の甘さと誉め言葉
月光やきょう一日の貌洗う
なすべきことの優先順位冬帽子
まなうらに面影しかと冬銀河
稜線の冴え冴えとして利休箸
 


響焔2014年3月号掲載

朱焔集

冬うらら   米田 規子

物干しにシャツの万歳冬うらら
一日の終りすぐ来て大寒波
丸鶏が焼け凍空の星あまた
しあわせのぐらりと揺らぎ花八手
実南天はたらく背中大きくて
果てしなき孤独マフラーに顔埋め
冬ざれてキャンドル一本の炎 (伊藤君江抄出)
 


響焔2014年4月号掲載

朱焔集

翼の灯   米田 規子

エメラルドグリーンの睡り冬の旅
噛めば肉ほろと崩れて冬の黙
追慕かな寒夜きらめく翼の灯
日常に戻る寒さと濃い珈琲
冬ざれや黒目大きな女の子
体重と歩数のはなし寒の水 (川嶋骼j抄出)
弾んで跳んでのばして音符春隣 (小林実抄出)
 


響焔2014年5月号掲載

朱焔集

春の雪   米田 規子

冬木の芽テニスコートから快音
海鼠噛む頭離れぬこと一つ
この先を見つめる勇気枯木立
くろぐろと箪笥の底の寒気かな
メレンゲのふわふわ真白春隣
沈黙に息のつまりて春の雪
春寒や洋酒の効いたチョコレート
 


響焔2014年6月号掲載

朱焔集

ヒヤシンス   米田 規子

風光るレモンバームと軽音楽
ゆったりと豆煮る時間ヒヤシンス
桃の花境界線の骨密度
ポンと目玉焼ほんとうの春何処
うめももさくら白髪の調律師 (和田浩一抄出)
メヌエット鉢をあふれて遊蝶花
百千鳥こころの扉開け放ち
 


響焔2014年7月号掲載

朱焔集

晩春   米田 規子

音も無く川の流るる桜かな
春帽子買い持ち時間どう使う
晩春の昼を灯して洋食屋
遠方より筍十本生きている
筍のえぐみが少し夜の雨
日は燦々と家の中の若葉寒
足裏にたくさんの壺夏兆す (和田浩一抄出)
 


響焔2014年8月号掲載

朱焔集

風の声   米田 規子

墓域から朗らかな声春落葉
あのころ夢中満開の緋のつつじ
絵の中の少女が透けて新樹光
家を遠くにひらひらと白日傘
時間たまわり木漏れ日と若葉風
梅の実やいちにち風の声を聴き
ぽっかりと頭上青空今年竹
 


響焔2014年9月号掲載

朱焔集

近未来   米田 規子

きらきらと三日遊んで鉄線花 (山崎聰抄出)
月曜日窓辺に赤いゼラニウム (森村文子抄出)
辣韭を漬け近未来輝かす
濃紫陽花レインハットのおじいさん
詩ごころの在り処フランスパンに黴
十薬の花ぼろぼろの日暮かな
花嫁のダンスくるくる南風
 


響焔2014年10月号掲載

朱焔集

朝顔   米田 規子

明易し猫に習ってねこのポーズ
庭先のビニールプール夏盛ん
涼しさや少女ゆたかな髪揺らし
見えない明日朝顔の咲き上り
アイスクリームと好きな音楽密やかに
唐突な真昼の睡魔ゆりの花 (川嶋骼j抄出)
いずこへも飛べない私旱星
 


響焔2014年11月号掲載

朱焔集

初秋   米田 規子

玄米をしっかり噛んで今朝の秋
ゆく夏の東京駅に銀の鈴 (和田浩一抄出)
ピクルスの野菜カラフル風涼し
おとうとよ夏の白菊水欲し
風の道ぱたりと途切れ蓮の実
初秋や紅茶に添えるママレード
蓮の実が飛んで猫の背の孤独 (内田秀子・田中賢治抄出)
 


響焔2014年12月号掲載

朱焔集

木犀   米田 規子

やや重く九月始まり常緑樹
風とお日さま朝顔の種はじけ
みじかい一日里芋の煮ころがし
木犀の香りの中のブダペスト
包丁を研いでもらって雁渡し
遠景に聳える古城ラ・フランス
雁来紅大きな曲り角の先 (山崎聰抄出)
 


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