米田規子 俳句集(2019年)
響焔2019年1月号掲載
光焔集
よく歩く 米田 規子
濡れ髪の乾いてかろし二十日月
秋めいて碁盤の上の黒と白
金木犀よく歩くこと眠ること
木漏れ日のベンチにどうぞ赤蜻蛉
十月やしなやかに鯉あざやかに
紅葉且つ散りそれぞれの道半ば (石倉夏生抄出)
晩秋をいっしんふらん同世代
響焔2019年2月号掲載
光焔集
初時雨 米田 規子
草紅葉少女と交す一語一語
老いに抗いカリカリと次郎柿 (石倉夏生抄出)
切る洗う茹でる炒める初時雨 (森村文子抄出)
木枯一号朝刊とマグカップ
好日のごしごし洗う泥の芋
あのころをともに遊んで冬木立
想像のもっとその先冬木の芽
響焔2019年3月号掲載
光焔集
青いひかり 米田 規子
冬の日の茶房大きな古時計
二階から絵具の匂いクリスマス
うつし世の青いひかりの冬の街
風花やうすき耳朶父に似て
シャンパンの泡の煌めき年惜しむ
ともしびを探しておりぬ大枯野
人参のグラッセの艶誕生日
特別作品
初明り 米田 規子
水底に冬の日揺らぎ一行詩
家古りてほのぼの林檎煮る匂い
神仏はねむり聖夜の赤ワイン
枯木星うしろ姿を見送りぬ
キャンバスに絵の具の起伏初明り
大根をざくと乱切り古希近し
ピラカンサ少し離れて考える
きらきらと寒晴れ朝の玉子焼
響焔2019年4月号掲載
光焔集
逆光 米田 規子
短日の入口出口パスワード
東京寒波逆光に犇いて (和田浩一、川嶋悦子抄出)
ひだまりに目を瞑る猫寒すみれ
干し芋のやさしい甘み冬ざるる
父遠く寒鰤踊る日本海
一人二個餅裏返すタイミング
友来る雪国抜けて空っ風
響焔2019年5月号掲載
光焔集
紅椿 米田 規子
立春の胸いっぱいに空の青 (川嶋悦子抄出)
ひさびさに会って別れて紅椿
平等に二十四時間葱坊主 (山崎總、和田浩一抄出)
草餅を好み実直なる男
くらがりに多肉植物冴返る
墨色の鯉の群れ来る春の風
如月のレモンイエロー未来都市
響焔2019年6月号掲載
光焔集
春の雷 米田 規子
ボサノバのリズムと珈琲風光る
赤ペン青ペン三月を埋め尽し (川嶋悦子抄出)
大理石のロビーにピアノ春の雷 (和田浩一抄出)
百人の眠りの飛行おぼろかな
空港の人種のるつぼ冴返る
プレッシェルをぽりぽり噛んで春愁
もう一枚羽織り煉瓦の春の家 (山口彩子抄出)
響焔2019年7月号掲載
光焔集
春禽 米田 規子
シリアルにミルク春禽の赤い胸
青空に聳える教会チューリップ
囀りやゆめから醒めぬ赤ん坊
もどかしく英語の国の八重桜
伝説のタコス頬ばり春の雷
マグノリア散り教会の重い扉
YES・NO梨の木高く梨の花
響焔2019年8月号掲載
光焔集
アマリリス 米田 規子
朦朧と五月始まり風の音 (山崎總抄出)
(森村文子 響焰12月号「響焰の俳句を読む」に鑑賞文)
とっぷりと日本人なり柿若葉 (山口彩子抄出)
夏来る大地を蹴ってスニーカー
つつじ燃え尽き先頭の青い旗
女の子異国に育ちアマリリス
おとうとに伝えたきこと夏燕
万緑や七十代の声の張り
響焔2019年9月号掲載
光焔集
更衣 米田 規子
夕暮れの風ざわざわと姫女苑
シャンプーの香りが残り走り梅雨
膕をぐいと伸ばして更衣
(山口彩子、川嶋悦子抄出)
はかなさのもっとも美しき梅雨の月
短夜のパソコン開き遠い国
六月は水玉模様ラブソング
(栗原節子抄出)
落日や夏帽振って声出して
響焔2019年10月号掲載
光焔集
白夜 米田 規子
いちにちのスタート青芒光る
梅雨長く「パリの休日」好きな曲
生き抜いて昭和平成まくわ瓜
迷走の思考のゆくえ雲の峰 (石倉夏生抄出)
コーヒーを好みの濃さに朝曇
大きく揺らぎ炎天の影法師
ノルウェー白夜左手のピアニスト
響焔2019年11月号掲載
光焔集
はつあき 米田 規子
ナイターの帰路耿々と父の背中
電柱のてっぺんに鳩夏休み
ごろんごつんと八月の塩むすび (石倉夏生抄出)
限界のあるにはありて水中花 (渡辺澄抄出)
夜の秋チキンスープに生姜の香
Tシャツの大きな背中土用波
水色のカチューシャはつあき女の子
響焔2019年12月号掲載
光焔集
花 野 米田 規子
おろおろと始めの一歩鰯雲
はつあきのオリーブの木と白い家
ゴーヤぶらぶら昼下りの静寂
その中にぽつんと独り雁来紅 (石倉夏生抄出)
アーモンド檸檬シナモン思案中 (渡辺澄抄出)
みんな居てまあるい花野印象派
楽譜を閉じて大いなる虫の秋