米田規子 俳句集(2022年)
 

響焔2022年1月号掲載

主宰作品

冬 椿    米田 規子

ぼんやりと過ぎゆく一と日木の実降る
一病を得て南天の実の真っ赤
冬日向プラットホームの固い椅子
父の声ははのこえ聴き白山茶花
満月にうさぎを探す術後かな
病室の四人湘南の冬ぬくし
眠る山いのちひとつを持ち帰る
湧き上がる力いま欲し冬椿
短日のアールグレイと電子辞書
赤い靴棚にねむりてクリスマス


響焔2022年2月号掲載

主宰作品

ポトフの湯気    米田 規子

ヨーグルトに蜂蜜冬日ほしいまま
花アロエするりと猫の細いしっぽ
朽ちやすき木の家なれど冬日燦
仏蘭西を語るポトフの湯気立てて
自愛か怠惰かそろそろ雪おんな
実万両ゆるりゆるりと癒えはじむ
海の向こう聖樹に集う三世代
生きるとはさわがしきこと大根煮る
ひとりふたり十人去りて山に雪
師走の灯訣別のごと髪切って


響焔2022年3月号掲載

主宰作品

梅ふふむ    米田 規子

まばゆくて夏柑金柑園児たち
ゆっくりと癒える途中の冬景色
シクラメン人払いして書斎めき
締切せまり凍空に昼の月
寒波くる東坡肉のほろほろと
一月やどすんと冥い日本海
枯木立光をまとい誰か来る
凍てはげし深紅ゆらゆら風の薔薇
大いなる躓きの先梅ふふむ
白い皿きゅっきゅと洗い春隣


響焔2022年4月号掲載

主宰作品

ふんばって    米田 規子

YOASOBIの「夜に駆ける」を弾く余寒
あともう少しふんばって冬木の芽
バレンタインデー髪艶めいて少女たち
きさらぎのきらきら過ぎて青海原
本ノート鉛筆メガネ春遅々と
晴天にしんそこ独りきなこ餅
紅梅やよきこと一つ大切に
春寒の髪を束ねて稿さなか
消しゴムのまあるくなって日永かな
いろいろな赤の花束あたたかし


響焔2022年5月号掲載

主宰作品

春を彩る    米田 規子

きさらぎや岬の白いレストラン
まずクロッカスが咲いて彼と彼女
春を彩るかまくら野菜アトリエに
美術館出てひとごえと春落葉
はくれんの大きな蕾明日の空
時短にてハッシュドビーフ木の芽雨
ひとりきりの夜の片隅フリージア
おぼろから生まれスマホの文字の数
逃げてゆく時間のしっぽぺんぺん草
今日を生きあしたのいのち花三分


響焔2022年6月号掲載

主宰作品

残花    米田 規子

風のオブジェか雪柳嫋やかに
束の間の春を遊びてスニーカー
リップサービス惜しむなかれ桜餅
若き死の圧倒的な花吹雪
カステラは玉子の匂い春の風邪
昨日きょう雨の気まぐれ残花かな
父の忌や遠火であぶる海苔の艶
カマンベールと青くさき四月の蕃茄
行く春の海のきらめき極楽寺
延々と続くこの道青嵐


響焔2022年7月号掲載

主宰作品

柿若葉    米田 規子

ひと息ついて春愁に包まるる
チューリップ愉快に乱れビルの街
遠き日や春のセーターははの色
竹皮を脱ぎ十年のパスポート
のどとおる白湯のまろやか柿若葉
鳩とハトときどき雀麦の秋
絵は苦手ですはつなつの自由帳
そら豆の一粒ひとつぶ物思い
青蔦やするする書けるボールペン
ズッキーニじゅわっと焼ける雨の昼


響焔2022年8月号掲載

主宰作品

麦星    米田 規子

にっぽん青天新茶の封を切り
我もまた弱者のひとり青葉木菟
走り梅雨バジルを摘みて香る指
少年に銃十薬の花の闇
よわき者らへ六月の風のうた
麦星やジャズピアニスト獣めき
つんつんと元気まひるの青木賊
短夜の黙って食べるおとこなり
白南風や一身上という訣れ
はたらいて働いてひるがおに夜


響焔2022年9月号掲載

主宰作品

シナモンロール    米田 規子

夏蝶のワルツ右脳を喜ばす
入道雲B4出口に辿り着き
片蔭に身を細くして大都会
夏の少女よ黒髪のやや重く
この街の空に親しみ立葵
緑蔭に散らばり詩人らしくなる
のび放題の夏草とのっぽビル
たそがれて曲り胡瓜のひと袋
スカートに絡む海風晩夏かな
香りよきシナモンロール秋隣


響焔2022年10月号掲載

主宰作品

栗色の髪    米田 規子

夕蟬の声のさざなみ風生まる
ゆく夏の木陰に集いジャズバンド
この世に行き交い空港大夕焼
くらくらと時差にねじれて夏落葉
米国につながるいのち金銀花
PCR検査大陸残暑かな
朝霧の光を踏んでしんがりに
アメリンカンジョーク遅れて笑い水の秋
栗色の髪やわらかく泉汲む
狂おしく暮れる大空百日紅


響焔2022年11月号掲載

主宰作品

茨の実    米田 規子

誰かれのこと青柿おもくなる
飲み忘れたる薬のゆくえ天の川
茨の実ひと山越えてはじめから
土砂降りの音フォルテシモ林檎噛む
FAXのはらり一枚虫の闇
約束をのばしてもらい秋夕焼
台風の進路にいるらし塩むすび
その先を考えている竹の春
秋しぐれチャーハン跳ねる中華鍋
ハキハキと答える子ども豊の秋


響焔2022年12月号掲載

主宰作品

小さなハート    米田 規子

風を描きカンバス一面花野原
平凡ないちにち林檎の紅きいろ
まだ柿の色付き足りぬ夕日かな
すこやかに術後一年秋桜
ぼんやりと未来が見えて吊し柿
泡立草なんだかんだと云ってくる
ベルギーチョコの小さなハート秋灯
こわごわと通草の冷えを掌に
ビルの灯のビルをあふれて暮の秋
おだやかにきょうを賜り紅葉狩


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