米田規子 俳句集(2024年)
 

響焔2024年1月号掲載

主宰作品

しめじ舞茸         米田 規子

七十路の真ん中あたり柿たわわ
むすめ来て古家ふくらむ夜長かな
手の温みマイクに残り冬隣
ぴかぴかの地魚の寿司冬はじめ
芒原三百六十度の不安
なにやかやごろんごつんと冬に入る
しめじ舞茸パスタに絡め遅い昼
たましいは天に冷えびえと墓の前
年月の色にとなりの次郎柿
葛湯吹くずーんとこころ沈む夜


響焔2024年2月号掲載

主宰作品

冬 青 空         米田 規子

いっせいに紅葉が散って今朝のゆめ
初しぐれ鋭角に鳥横切って
人と人のあいだを詰める十二月
パトリック来て独逸語交じる冬の暮
止めようのなき時の速さを鵙高音
自由とはてくてくてくと冬青空
冬萌や野球少年輪になって
とつぜんの膝の不機嫌年つまる
薬膳カレー胃の腑にしみて冬景色
短日や行きも帰りも向かい風


響焔2024年3月号掲載

主宰作品

光 降 る         米田 規子

たそがれてかくもカンナの枯れはげし ペンの芯取り替えこころ寒き夜
トーストにバターと餡こ寒に入る
生きているか能登は最果て冬怒濤
寒風三日パンジーは地に伏して
ポエム生まれるまでの迷路霜柱
精密な線描画たる裸の木
枯れきってしまえば光降るごとし
寒椿ひと日ひと日を積み重ね
おしゃべりな鳥たちの群れ春隣


響焔2024年4月号掲載

主宰作品

赤い椅子         米田 規子

ふきのとう時間と云うは宝物
寒薔薇一輪のみのオーラかな
春めいている二階の赤い椅子
真昼間のおろして甘き春大根
詩ごころの目覚めるころか春の雪
もの書くに切羽詰まって春一番
春愁やこのごろ軽い鍋が好き
遠くにある夢のくらしと春の星
なぐさめの雨かとおもい落椿
木の芽風つぎのページは何の色


響焔2024年5月号掲載

主宰作品

花椒の香り         米田 規子

詩はいつも遠くにありて春の草
落日のすさまじき赤冴返る
吾に風尖りくる日の梅白し
句集編む雨にきらきら桜の芽
水ぬるむ病院帰りの足軽く
春星のきらめく荒野しるべ無く
楓の芽この世の空気つめたかろ
白粥にたまごを落とし春愁
花椒の香りのほのか朧月
一時間に一本のバス花の昼


響焔2024年6月号掲載

主宰作品

花 の 雲         米田 規子

どうしても足りない時間亀鳴けり
曇天のもやもや四月人が湧き
元気かと問われチューリップの黄色
連弾の低音響き花の冷
いちにちのほんのひととき蕨餅
決断と迷い交錯花の雲
しめきりは門限に似て夜の桜
一年後さくらの終わるころがいい
晩年暮色かなたから母のこえ
若楓日ごとに変わる風の色


響焔2024年7月号掲載

主宰作品

松 の 芯         米田 規子

バランスの崩れかけたる赤い薔薇
耳の奥に母のうたごえ夕朧
東京や薄日うす雲松の芯
憲法記念日ステーキのウェルダン
混沌のゆくえむんむんと緋の躑躅
五月闇シャボンの泡に顔うずめ
葉桜や不安かき消す風の径
ボサノバのリズムに乗って街薄暑
夏はじめ歩幅の位置に石ならび
万緑のすとんと水面亀と亀


響焔2024年8月号掲載

主宰作品

黒ビール         米田 規子

じゃがいもの花安らぎは今日の風
夏の雲本積まれゆく速さかな
若さゆえ声ひかり合う夏木立
どくだみの花の純白夕まぐれ
手ぶらで来てねと横浜夏はじめ
白南風やてのひらに受くグミ三粒
  夏休みごうごう夜の食洗機
音楽とガーベラ十本あればいい 傷心の昼の静けさラベンダー
黒ビール異なる夢を追うふたり


響焔2024年9月号掲載

主宰作品

水 中 花         米田 規子

青梅や気弱なる日は雲を見て
夏来るきゅっきゅと母の塩むすび
翼もがれたわたしにこの炎天
みんな達者で不揃いの露地トマト
日盛りやしーんと昏い家の中
音楽に癒されペンの走る夏
おろおろと男がふたり冷奴
朝三錠夕べ一錠猛暑なり
ゼラニウムの情熱の赤おとろえず
ぎらぎらと渋谷は遠く水中花


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