米田規子 俳句集(2001年)
響焔2001年1月号掲載
白焔集
柿もみじ
加賀ことば時々使い花野径
(伊関葉子抄出)
童謡の森ふくらみて紅葉坂
わが歳月友の歳月柿もみじ
それぞれの家路につきて鰯雲
おじいさんおばあさん元気式部の実
(山崎聰抄出)
白灯集
曼珠沙華こころの扉いつひらく
柿朱く病む子と話す日曜日
夢ふくらむ未来や林檎切り分けて
女子高生あふれんばかり柿の秋
おにぎりの手塩ざらざら冬めきぬ
響焔2001年2月号掲載
白焔集
木の蜜柑
雨あとの空気きらきら木の蜜柑
柿の木に柿の灯ともり五十代
のど飴をみんなに分けて冬の雲
不安な日ポインセチアを陽の中に
こころざしピラカンサスの朝の道
響焔2001年3月号掲載
白焔集
ピアノ弾く
先生と落ち葉のような園児の輪
冬夕焼肩やわらかくピアノ弾く
降るように飯桐赤実宴の日
ちちの声聴く雪吊りの一本松
ことばのない絵本をひらき冬銀河
(伊関葉子抄出)
白灯集
冬紅葉大きな山をふたつ越えく
冬林檎昔ばなしのようにチェロ
途中から未来へつながり冬木立
冬の夜のアイスクリーム夫が居て
人肌のミルクを恋うる枯れ野原
響焔2001年4月号掲載
白焔集
冬太陽
冬太陽こころ離れるものいくつ
(和知喜八抄出)
一月の新しい鍋古い鍋
青空に吊すジーパン雪景色
(長沼直子抄出)
冬帽子すっぽり娘のひとり旅
良きこともうすむらさきの冬景色
白灯集
寒風を来て厚切りのポークソテー
みんな集まり雪の夜のカレーライス
トランペット高音澄みて寒夕焼
はじめから考え直し枯木立
日が当り寒鯉のように息子居る
響焔2001年5月号掲載
白焔集
春隣
ハート型チョコレートケーキ春隣
かなしくて如月の街白い街
春遠くフランスパンとモーツァルト
(和知喜八抄出)
重いもの動かしており春渚 (山崎聰抄出)
パン種の酵母にいのち春の雪
白灯集
くっきりと猫の足あと寒明ける
水音に沿って歩めば芽吹山
春三日月たのしきことはすぐ終わり
ぱっちりと赤いひな菊誕生日
あっけなく診察終わりクロッカス
響焔2001年6月号掲載
白焔集
陽炎の坂
ひと皿に三種のケーキ春時雨
陽炎の坂を登れば道岐れ
春の宵ほろ苦きものありがたく (山崎聰抄出)
だんだんと家が近付き沈丁花
留守番のむすめと猫とスイートピー
白灯集
約束の国分寺跡青き踏む
こころふくらみ山里の桃さくら
神社から憩いの森へさえずれり
板チョコをパキンと割って木の芽風
まぼろしのように初蝶過疎の村
響焔2001年7月号掲載
白焔集
澄んだ目
たんぽぽの黄色きのうを消しており
紫木蓮あかるい声が聴きたくて
澄んだ目の魚をおろす遅日かな (山崎聰、新川敏夫抄出)
母と子の想い出赤いチューリップ (和知喜八抄出)
人生の真ん中あたり青嵐
響焔2001年8月号掲載
白焔集
はらっぱ
夏めきて医療センター北玄関
夕暮の白ばら匂い珈琲店
柿若葉かがやきピアノコンチェルト
はらっぱの木馬に手綱夏めきぬ (山崎聰、新川敏夫抄出)
蚕豆とシャンペン夫のフランス語
(和知喜八抄出)
響焔2001年9月号掲載
白焔集
祈り
梅雨曇おにぎり包む竹の皮
たくさんの祈り十薬花明り
(和知喜八、長沼直子抄出)
ゆさゆさと六月の樹々ひとりなり
かたまって梅雨の木の道石の道
にんげんの影のでこぼこ螢狩
(新川敏夫抄出)
響焔2001年10月号掲載
白焔集
蒼い富士
ささやかなことを喜び花石榴
わが影に蹤いて子の影炎天下
向日葵のあたまの重い日暮かな
ありのまま受入れ真夏蒼い富士
(相田勝子抄出)
これからのこと炎昼に鳥騒ぎ
響焔2001年11月号掲載
第28回(平成13年度)響焔賞 佳作
百日紅の空
ジーパンと白いTシャツ夏が好き
追われいて夾竹桃の風の中
球体の市民シアター揚羽蝶
アフリカ展の仮面いろいろ強冷房
ときには孤独青葡萄の下通る
熱風三日決心のようなもの
ミートソースとろとろ煮込み終戦日
おのずから祈り百日紅の空
うれしさは万緑へギア切り替える
子の洩らす優しいことば青田道
きらきらと水辺の時間夏柳
家という小船銀河の果てしなく
夏深しコーヒー館の小さき窓
無花果のタルト想い出パリの街
「G線上のアリア」まっすぐに秋
白焔集
穴子丼
竹林出て赤い金魚の五・六ぴき
鎌倉残暑小さめの穴子丼
ラフマニノフピアノソナタ夏怒涛
秋めいて病院までの白い道
アメリカンドリーム真っ赤な林檎買う
響焔2001年12月号掲載
白焔集
往復切符
ひとり増え海の青さの初秋刀魚
(金子一与抄出)
京都横浜往復切符天高し
つゆ草の透明な風バッハ聴く
朝の林檎きのうのことに拘わらず
かなしみは蒼い月夜のラプソディー